2012年11月15日木曜日

白河夜船 / 吉本ばなな


「白河夜船」、「夜と夜の旅人」、「ある体験」の3編が収録されている「白河夜船」。

本のタイトルにもなっている「白河夜船」は特に好き。

白河夜船・・・周りの様子に気付かないほど熟睡しているさま


この話の中で好きなのが、主人公の寺子がアルバイトしているときに、
ちゃんと仕事ができる、っていうことが周りに知られてしまったら、
たくさん仕事をふられてしまうから、あえてできない子のふりをしていたのに、
ある日、ふとそんなのを続けていたら、本当に何もできなくなってしまうんじゃないかって不安になって、
一人で休日出勤した時に、本気で仕事をしてみよう、って思い、
一気に仕事を片づけていくところ。

始めてみたら、仕事が片付いていくことが楽しくなって、
どんどん仕事を終わらせていき、
「あー終わった!私もやればできるじゃん」って思って
立ち上がり、まわりを見渡したら、
隣の課の課長がいつの間にか来ていて、
「君に話しかける言葉もないよ」と言って、しばらく大笑いするシーン。

この後、2人は近くの喫茶店へお茶をしに行って、
これが、寺子と岩永さんの恋の始まりとなるわけなんだけど、
この一連のシーンがなんともいえず好き。

寺子のこういう性格も好きだし、
岩永さんの、対応もきゅんとなる。

これから、この2人はとてつもなく大きな恋愛に飲みこまれていくわけで、
ストーリーのほとんどの間、2人はタイトルが示すよう、濃い青のような色の世界を漂うのだけど、
このシーンをイメージする時は、
いつも社内に暖かい日差しが差し込んできていて、オレンジ色のイメージなんだよね。

こういうばななさんの暖かいところが好き。

あと、好きなのは、奥さんの若いころが現れて公園で寺子に話しかけるところ。
つきあっている人の奥さん(しかも植物状態)という微妙な存在なのに、
奥さんも寺子もまっすぐ、というか、とてもさっぱりしていて好き。

さみしさ、流されるしかない運命の中にも、暖かさと少しの前向きさがあるお話。



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